Magazine Series - izumi out

vol.3 Car Life / Aug,2016

Saltwater Magazine series – izumi out

“izumi out”とは、プロフェッショナルアングラーでありコアマンの代表である泉裕文の釣りに対する想いを表現するメディア。彼が産みだす数々の釣れるルアーたちは、どうのような考えを元にカタチになっているのか。そのプロダクトづくりをする上でインスピレーションを得ている釣りに関連するモノやコトについて語る雑誌連載。

 

イズミアウト 第3回「カーライフ」

無類の車好きである泉。趣味として。そして、仕事道具としての車。 泉の車へ対する考えを、ここで改めて聞いてみると、 思わぬ言葉が飛び出してきた……

小誌。そして、 単行本『シーバスノート』でも紹介したことで、 そのスタイルを記憶している方も多いだろう。 車を"タックルボックス化"し車中泊し シーバスを追い求める…… というスタイルは、どうやら過去のことらしい。 "いま"の泉のカーライフを全公開してもらった。

 

昔みたいに車を  ”タックルボックス化”してる  人は少ない感じですね。

"タックルボックス化"した車から 時代はエコカーへシフトか

「近年はプリウスみたいにハイブリッドカーや軽のワンボックス率がすごく高くなってきてますよね。だから、(タックルを車に)乗せっぱなしにしてる人が少なくなってる気がします」。泉の釣り仲間の環境を聞いた答えが意外にもこれだった。業界屈指の車好きである泉は、これまでも車に関する提案、ネタを提供してくれた。小誌読者の記憶に新しいのは、ハイエースの改造ではないだろうか。いまやデイゲームメインのイメージが強い泉だが、以前は普通にナイトゲームにも積極的だった。そのころは、そのハイエースも"部屋"として大いに活躍。小誌撮影時も昔は現場でよく寝泊まりしたものだ。  いまや、燃料の高騰、エコロジーという時代の流れなどによりアングラーのスタイルも変わってきていることは明白。また、皆、ベテランの域に達しているのも理由だろう。

 

若い人たちのニーズも知りたい。 車を持っていないことを 想定して動いたりもします。

昔とは明らかに違う 世代の差を知るための提案

若者の車離れにより、アングラーは減少しているのだろうか。人口が減っているのだからアングラーが減ってもおかしくはないと考える。"もっとシーバスゲームを楽しんでほしい"と常々思っている泉も、いろいろ考えている。 「お父さんの車を借りたり、レンタカーやシェアカーでの釣行ってこれから増えるでしょうね。そういう若い人たちのニーズを知りたい。僕は車が好きですけど、持っていないことを想定して動いたりもします。実際、車を持つ若い人たちは減っているかもしれませんが、逆に感じてるのが、もっと若い世代、中高生がフィッシングショーや釣り場、(タックルを持って)電車の中とかでよく見かけるようになったこと。パックロッドを作ってるのも、そういう人たちのニーズに応えるためでもあります」という。

【(左)フォード/E150(全長5504mm、幅2016mm)とトヨタ/IQ(全長3140mm、幅1705mm)。この差】

 

遠近の使い分けで開眼した現在のシンンプルスタイル

釣りに最も重要なアイテム……いや、なくてはならない相棒という名にふさわしい存在が車だろう。移動時間の多くをともにし、いろんな景色を見せてくれる車。時間を選ばない遊び、釣りだからこそ、そして、荷物が多い遊びだからこそ〝自由度の高い〟車という道具は欠かせない。泉にとって車は趣味であり仕事道具。車も、そして、機械いじりも大好きな泉。「この世界(釣り)に入ってなかったら車のほうへ行ってたかも(笑)」というほどの車フリーク。今回は、そんな車にテーマを絞り込み話を聞いてみることにした。

「昔はナイトゲームもよくやってたから車中泊もよくやってましたよね。そのときは車がタックルボックスでしたから。……っていうか、もう部屋化してましたよね。でも、もう数年前から奥さんが車を持つようになってから、近所へは奥さんのIQ(トヨタのコンパクトカー)を借りていくことが多くなった。そこから、ハイエースは遠征用に特化させるようになりました」と泉は、この段階から徐々に何かに気づきはじめる。そして、コンパクトカーの出現によって〝遠近の使い分け〟というスタイルに大きくシフトした。これまで、デリカやラルゴ、ランクル、そして、ハイエースなど大容量の車を釣りグルマとして乗り続けてきた泉。仕事も車内で行うなど、車は男の部屋そのものだった。釣り場での時間を優先にした時間の過ごし方。もちろん現在もフィールドで過ごす時間は多いのだが、いまは車中泊をすることは少なくなったし車中で仕事をするとしても、スマホでやるだけ。それも、コンパクトカーを積極的に使うようになってからだ。

近年、泉の釣行スタイル、およびライフスタイルは、いらないものをそぎ落とすかのようにシンプルでライト。釣行する際の装備ももちろんそうだ。あれだけ装備するのが好きだった泉だが、突き詰めて極めた結果、違う景色を求めるようになった。タックルを積む前の車内は見事に空っぽ。タックルの小型化、省略化もそうだが、必要最小限のルアーだけ持っていくというミニマリスト化。増えたのはネックピロー(首枕)くらい。これは、前回も紹介したが、少しでも仮眠をすれば楽になるため、それをより快適にするため愛用している泉のフェイバリットアイテム。遠征時の長時間運転でも無理に運転しなくなった。2時間運転したらアラームで15分セットして寝るようにしている。これらスタイルを実践しているにはワケがあった。 「デイシーバスは身近に楽しめるもの。身近にするには身軽やないと面白くならない」という点にある。泉の根本にある考えは〝デイシーバスの身近さ〟をもっと提案すること。ブラックバスがそこら中の野池にいるように、海には思っている以上にシーバスが身近に棲息している。コンパクトカーに厳選したタックルをちょろっと積んで行ける気軽なシーバスゲームが実際にある。泉は身をもって毎日のように体感しているから。シーバスゲームの意識をナイトメインからデイへ注目させただけでも革新的なことだが、今度はもっと身近なものにしたいという願いが、デイを開拓してきた泉にはある。少し話がそれたが、要するにコンパクトカーによる〝軽快さ〟が泉のパフォーマンスをより向上させているわけだ。昔から泉が口にする言葉がある。それは「上手くなりたければ、もっと釣りに行け」と。フットワークの軽さがそれを実現するだろう。

そして、もうひとつの軽快さを生む秘訣。それは頭の中……そう、習慣づけにあった。 「これまで、タックルを車に乗せっ放しにしてたときは、そのまま何も考えずに釣りに行ってた。でも、行くときにタックルを選ぶようになってからは使うものを厳選するようになって釣りがよりシンプルになった」という。車のタックルボックス化はオトコゴコロをくすぐるに匹敵する憧れであり興奮の空間だが、どうやら泉は長年続けてきた、この置きっ放しスタイルに停滞感を感じていたとカミングアウト。  積みっぱなしを完全にやめた理由のひとつとしては、車上荒らしなどの声をよく聞くようになったこともあるが、一番の理由は、毎回行なう、このタックルの上げ下ろし作業が思わぬ効果を生み出したこと。これにより泉のスタイルは大きく変わっていった。

【E-150は見ての通り大容量。だが、使うタックルは大型ランドリーバスケットやコンテナにまとめられスッキリしている。これで上げ下ろしが楽になるというわけだ】
【もうひとつの車、軍モノ好き泉のコレクションともいうべきランドローバー・ディフェンダーとIQが並ぶコアマンガレージ。ディフェンダーは完全プライベートでの中距離移動で使用するとか】
【デスクには車のファッション、ライフスタイルスタイルマガジンなどがすぐ手の届くところに。ライト好きでもある泉。便利なものは使う。車中泊ではなく仮眠を利用して頭をスッキリさせる】

 

「釣りに行くたびに〝これで行くぞ〟ってタックルを絞り込むことで得るものが大きかったですね。使うルアーを考える習慣が付きましたからね。もし、ルアーなかったら行った先の友人に借りますから(笑)。借りられるという人間関係を作っておくことも大切ですよね」と話す。スタイルを変えることで改めて多くのことに気付いたわけだ。

ここまで話してきたことは、なにもコンパクトカーに限ることではない。遠征時は少し荷物が増えるものの、大容量の大型車は長時間運転する際は体も楽で、何より乗るという楽しさを存分に味わうためにある時間だ。いま、遠征時に活躍している大型車はフォードのE–150というアメリカ映画で目にする重厚な車だ。 「このE–150……アメ車のフルサイズバンに乗るのは昔から夢やった。実際に乗ってみんとわからんからね。乗ってみてわかったのは〝まぁまぁデカイ〟ってこと(笑)。駐車スペースも限られるし決して便利ではない。でも、イベントとかでは、すごく荷物が積めるから便利です」と楽しそうに話す。

そして、プライベートでは若きころから憧れだったというランドローバーのディフェンダー110という、またマニアックな車を所有する。 「20代のころは車高の低い車が好きやったんですけど、4駆ブームで車高の高い車に憧れるようになったんです。その頃から、ディフェンダーは憧れでしたね。このミリタリーテイストに溢れてるところやコンポーネントが40年以上も変わっていないところが素晴らしいですよね。ポルシェ911もそう。変わってない、変わる必要がないんですね。ディフェンダーは、6速ミッションでパワーウインドウも何も付いてない超シンプルな車。決して乗りやすい車ではないから、マニアしか乗らんでしょ、こんな車。完全、マニア向けの車(笑)。いままで変わる必要がなかったっていう、いらないものは付けていない完成形。そういうところが魅力的で憧れたところですね。この車は一生、相棒として付き合っていきたい車です」  泉はこの車のこととなると、より一層テンションを上げて語る。泉が釣りグルマに求めるもの。それは、遠征時だけでない。常に車中、その空間を楽しんでいるのだ。 「釣りだけじゃなく、釣りの行き帰りの道中も好きな車に乗ってウキウキワクワクしたい。居住空間を充実させたいですよね。それだけでテンション上がりますもんね(笑)」  

タックルの上げ下ろしはするものの、やはり、男の好きな空間であることに違いはない。好きな音楽を聴いて好きな車に乗っているだけで高揚するのは頷ける。もはや男の部屋を卒業したいまの泉に、その最高峰であるキャンピングカーへ対する質問は愚問かもしれないが聞いてみた。 「キャンピングカーは、いまはないですね。でも、引退後は全部売り払って固定資産を持たないで……車やったら海辺にずっといれますからね。そうなったらキャンピングカーもアリやと思います。ベースは神戸で空き地だけ持って住居はキャンピングカーにして、好きなときに好きな所に移動して釣る。そして飽きたらルンバ(ロボット掃除機)みたいに時間がきたら勝手に戻ってくるみたいな(笑)」という〝究極の身軽さ〟も視野に入れている。

いま現在、泉が車に関することで知りたいことは、車を持たないことで不自由と思わないという若者たち(アングラー)の新しい感覚だという。車を持たないことが、よい悪いではなく、アングラーとしてどんな感じなのか。それが普通ならそれでいいわけだ。 「これも自分が実際にやってみないとわからないですからね」  泉とは真逆のスタイルだからこそ知りたい世界。これを知ることで、泉のスタイルにまた変化が訪れるかもしれない。

【なんでも2機用意するのが泉スタイル。だからナビも2機。縮尺の違う画面で位置確認】
【ロングドライブの道中は泉のプライベートな空間。だからこそゆっくり楽しみたいという】
【近所へのナイトゲームは、コンパクトカーIQでスイスイ。確かにお気軽で便利。なぜだか時間も密に過ごせる気がしてしまう】

 

雑誌 ソルトウォーター(株式会社地球丸)2016年8月号に掲載

text & photo: Kenji Matsumoto
edit: Yashuhito Nakamura & Teru Wakabayashi

株式会社 地球丸 http://www.chikyumaru.co.jp/
株式会社 リバーウォーク http://river-walk.co.jp/

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