Magazine Series - izumi out

vol.4 Rod / Nov,2016

Saltwater Magazine series – izumi out

“izumi out”とは、プロフェッショナルアングラーでありコアマンの代表である泉裕文の釣りに対する想いを表現するメディア。彼が産みだす数々の釣れるルアーたちは、どうのような考えを元にカタチになっているのか。そのプロダクトづくりをする上でインスピレーションを得ている釣りに関連するモノやコトについて語る雑誌連載。

 

イズミアウト 第4回「ロッド」

見た目では分からないロッド。 しかし、使えば雲泥の差が出るほどの代物。

本誌SALTWATERでも、 泉の"竿の進化"は常に取り上げてきた。 泉の"右腕"となる竿。 シマノ社とタッグを組み、そのアイデアが "右腕"に注入されるまでのストーリーを 今回はインタビュー。

 

欲求を竿に乗せ 竿とともに進化する

「キムタク、流行ってた時代やからね(笑)」 20代前半の頃の泉はロングヘア、ショートロッドという出で立ちで毎夜、波止際を歩いていたという。 「バス用はどれも硬かった。このころからテクトロにこだわって竿を選んでました」というマニアックさ。 「むっちゃ(シーバスが)釣れるから友達を誘うんですけどだれもこない。釣りばっかり行くから、もう変人扱いですよ(笑)」と当時を大笑いしながら振り返る。当時、シーバスゲーム自体がマイノリティーなものであり、やってる人も『シーバスハンター』など大きなルアーを10〜12㌳台長めのパワーのあるロッドで投げる時代。泉は、そのころから柔らかい渓流のミノーイングのロッドに5〜7㎝の小さなミノーという組み合わせで〝変人扱い〟されながらもシーバスを釣りまくっていた。

上写真で紹介している、ザウルスのバスロッドもテクトロで使用。シーバスロッドで理想とするものがなかったためだ。 「いま考えたら、とんでもないドデカいガイドが付いてますけどね。でも、テーパーとしては僕のニーズをクリアしてましたよね。だから、すっごい気に入って使ってました」

 

乗りのよさは泉にとって……いや、本来なら魚を獲りたいワケだから、アングラーとして全員がここへこだわるべきだろう。しかし、実際はそうではなかった。〝シーバスはバラして当然〟という〝当たり前〟的なものが蔓延していた。いまもその流れは残っているはいるが……。 「魚はかかって出会えるけどバラシが多い。でも当時は、それでよかった。かかる魚が多かったからね。(僕は)だれよりも飛ばしてだれよりも釣ってたから。でも、多くの人がやるようになって魚が減りはじめた。これまでと同じことをしてても釣れなくなった。かけた魚をバラす……その魚が貴重な存在になってきた。そこで、竿を柔らかくせんとアカンな、と思いはじめた」とシナリオを話す。皆が思っていること、していることは決してすべてが正しいことではないし〝当たり前〟ではない。

そして、当企画の第一回『リール』のときにも話をしたが、PEの登場によって大きな波が訪れる。 「PEラインというラインのゴールを迎えたときにリールと竿は、まだ追いついてなかった。ラインだけが突っ走ってた。人間、なんでも使って失敗せんとわからんからね」 そこから泉は、PEラインの高感度な特性を生かし、〝その、もっと先にある感度を竿で取りにいこう〟と新たな欲求に駆られAR‐C806という攻撃的ファーストテーパーロッドをリリースし当時の夢を叶えた。

 

最強のハードがあって 最高のソフトと合致する

「開発費用は気にしません(笑)」 「まぁ、常識の範囲っていうのが あるんで(苦笑)」 兵庫県神戸市にある泉の自宅から大阪府堺市に本社を置くシマノ社まで車で40分。現場だけでなくミーティングは、両者どちらかの会議室でたまに行われる。今回はシマノ社へお邪魔。現在は販売促進課に所属する右京寛康さんに話を伺った。右京さんは、泉さんとはエクスセンスの前の段階で企画担当としてタッグを組んでいた。

泉がシマノと関わりはじめて16年の月日が経つ。シマノの持つ技術的なハード面と泉がこれまで養ってきたソフト面とが合致して、シーバスゲームは進化してきた。最新のテクニックをフルに機能させるにはこれらロッドの存在はなくてはならない。前のページで述べたようにPEラインのように、どれかひとつがブッ飛んでいても何も起こらない。むしろ、トラブルを引き起こす。そう、何ごともバランスが必要なのだ。

「シマノさんのすごいところは、ノウハウがすごいから短期間でいいものが出てくる感覚がある。遠回りがない。速い。開発の方にも、僕が言ったことがすぐに伝わる。開発費用は気にせんでええからね(笑)。だから、そんなにやり直しはない。お互い高い感度でキャッチボールができるんでね」。シマノとハードと泉のソフトは、どうやらバランスが取れているようだ。泉の意見に対してシマノが応える。泉にはそのビジョンが明確だからやりやすかったと右京さんは言う。  

泉の求めたPEラインのその先にある感度のところに話を戻す。泉はAR‐C806で一旦、自身の夢を叶えたが、その後、ファーストテーパーに限界を感じるようになる。原因はやはり〝バラシの多さ〟。AR‐Cとの組み合わせで納得の感度を得たが、やはりバラシだけは解消されなかった。 「そこから、エクスセンスのAR‐Cになっていくんやけど、そのときにガクンとパワーを落とした。AR‐Cのファーストテーパーをぎりぎりに残してマイルドに仕上げた。バラシを減らすためにね。それが、エクスセンスS902ML/AR‐C。柔らかくしても、いかに感度と操作性を残せるか。それが課題でした」。

だが、ここでも一旦は満たされるが、泉が求める〝完全〟には程遠かった。そこでボーダレスとの出合いが待っていた。だが、既存のプロダクトであるため、そこには不満もあった。 「最先端のファーストテーパーのAR‐Cができたけど、ファーストテーパー自体に限界を感じてた。そして、昔使ってた軟調の竿に戻っていく。ファーストテーパーを残しながら、どこまでレギュラーテーパーに持っていけるか……。でも、それも竿が短かったら限界がある。2本継ぎでできないでしょ。でも、4本継ぎやったら……できる。それが新しいエクスセンス。先は柔らかいけど、バットはバッチバチで曲がらへんからね」  エクスセンスS1010‐1110M/RF‐Tファイティングアブソーバーが誕生した。現時点で泉が最強と謳うロッド。表記にある〝1010‐1110〟というのはシマノの磯竿に古くから搭載している独自構造、ズーム機構だ。「最初、僕の中でズームなんてありえなかった。いままでシーバスロッドには、そういう発想がなかったからね」。シマノ側から泉へとズームというハードを提案。泉はそれに迷わず乗った。 「最初、長さの話になって、僕はボーダレスの全ラインナップを使ってみて自分に合ったドンズバの長さが340‐MTやった。でも、僕のニーズに合わすなら2本いるやんって話になった。そしたら開発から〝ぶっちゃけ一番短いとこと長いところはナンボですか? じゃぁ2本作ります?〟って聞かれた。そしたら、ズームの案を出してくれて、〝それ、めっちゃオモロイな!〟ってなった(笑)」。レングスは340‐MTを挟むようにズームを縮めた状態で330㎝、伸ばして360㎝というワンフィートアクションズームに設定。使ってみて泉は足場の高さに応じて順応できることもそうだが、やり取りでも大きなアドバンテージを得ることを実感した。

もうひとつ泉が持つ、強いこだわりはグリップセクションの細さだけでなく〝長さ〟にある。その長さの理由は、〝バラさないための長さ〟だというのだ。この長さはエクスセンス‐ボーダレスに限ってのこと。エクスセンスではまた長さが少し違う。ここでも、要するに全体とのバランスがあってこそ長さが決まる。そこは企業秘密ということで詳細は教えてもらえなかったが、数㎜単位で両者で突き詰めたゴールデンバランスだという。さらに人差し指を置くフォアグリップにも議論はおよぶ。

「実は、ここもすっごい重要。ここが気持ち悪かったら釣りに集中できひんもんね」というフォアグリップは細身のシガータイプというもの。 「ここって竿の重心でしょ。ここでアタリを取ってるんです。竿の重心に指を置くていうのは絶対。シーソーと一緒でアタリという振動が指に伝わって竿が入り込むからアタリがわかる」。中指を支点にして人差し指を伸ばして軽くホールド。すべての所作に理由があるわけだ。  

【シマノ本社にて打ち合わせ。大阪は堺市にシマノ本社の会議室で右京さんと打ち合わせ。「話す時間は、短いときは10分、長いときは3時間。いらん話も含めてね(笑)」】

 

では、ここまで明確な泉の思いがあって、どれくらいの期間でロッドが完成するのだろうか。 「今回の新しいズームの竿は4回ほど試作を作って2年ほど。構想を入れると4年はかかってます」と泉。「毎回、担当者はサンプルを泉さんに渡すときヒヤヒヤしてますけどね(笑)。普通は(魚が)よく釣れた竿がいい竿ってなりがちなんですが、泉さんはそれをまずは抑えて竿から感じるところが圧倒的なパフォーマンスですよね」と右京さんは言う。

イメージ的には何匹も釣って、いい点悪い点に気付いて修正していくものだと思っていたが、泉の場合は違うようだ。 「実は一発目の印象で決まる。もちろん、そのあとも(魚を釣って)テストは続けますけど、ほとんど第一印象でわかることが正解ですね。あとは、その確認作業です」。使う場所も使うルアーも決まってて魚の引きも体が覚えているため(サンプルの)現段階の状態でどこが足りないか満たされているかはすぐにわかるわけだ。 「僕らは、(ソーラスで)立ち入り禁止になる前から釣りまくってるから、その感覚は忘れない。環境に恵まれてた。岸壁ジギングなんか日に60本釣るのも当たり前でしたから。いまでは信じられないでしょ。そんな時代でした。これだけ釣ってたらソフトもすぐにできますよね。いまの時代みたいに日に1、2本ではわからない。だから、いまの若い人らには〝違う方法を見つけて釣れ〟って言ってます」とアドバイスしているようだ。

実は、世に出ているのは一部の光った企画だけ。本誌でも泉の竿やリールなどタックルの進化は、その都度、紹介しているが、紹介するに至るまで泉はテストとして多くの時間を費やし納得してから世に出している。 「釣りが完成するまでは表には出さない。ボーダレスも使い込んだからこそ、僕のニーズがあるわけで、その辺の時間軸が早くなったり遅くなったりはしない。この竿もデイゲームのオープンウオーターの夏の竿やから、その盛期のときにテストをするのが一番。もちろん、季節を問わず年中、テストはしますけどね」。前述した、〝バラさないグリップセクションの長さ〟だが、これは、やり取りに大きく影響すると言う。つまり、多くの魚を釣ってこそ導き出される数値。ファーストインプレッション後の確認作業とは、この部分にあたる。テストロッドを触りながらも泉の経験値は増え、さらに欲求という名のアイデアが湧いてくるのだ。

「もうすでに次のビジョンはあります(笑)。でも現段階では、コイツをもっと生かせることがあるはずって考えてます」と深化させる努力は惜しまない。こう聞くとシーバスゲームは、どんどん難しくなるのでは、と思う読者もいるだろう。 「例えば、〝よーいドン〟で僕と嶋田(仁正)さんが最短で魚を釣る競争したら、嶋田さんはきっと川へ行く。でも、僕はテトラ。そこで、竿が変わってくる。同じ長さでもエクスセンスはそんな竿。AR‐Cやエクスセンスでも全部の釣りは埋まらない。だから、1個にまとめたらダメ。魚を釣りやすくするために細分化してるだけ。僕がこの竿を最強と言ってても、夜は長くて使えないしプラッギングやスポット撃ちにも向いてない。川の魚を流れから引き離すパワーゲーム向きではなく、力をいなす竿。でも、オープンウォーターでは、むちゃくちゃ機能する。どのスタイルを選ぶかはアングラー次第。そういう時代。しかもまだゴールじゃない。まだ過渡期なんです」と泉は語気を強めた。

【随所にこだわったフルオーダーメイド。泉の欲求にはブレがない。ルアーを動かしたい。高感度。魚はバラしたくないけどファーストテーパー。手前にきたら曲がってほしい。「昔から変わらないですね」と右京さん。通常のボーダレスは小さなIMガイドだったが、今回のエクスセンスはライン抜けを向上させるため高脚Kガイド仕様。ズーム機構名は〝ワンフィットアクションズーム"。泉のこだわりグリップセクションは磯竿に採用されている、滑りにくい高感度スリムグリップ。泉のライトスタイルにベストマッチする】

 

~泉裕文のロッド遍歴~ <スピニングロッド>

UFMウエダ/ スーパーパルサー55UL
渓流ミノーイングロッド。20代前半に足場の低い波止で小型ミノーでのテクトロで使用。アタリはよく取れるがパワーがないためかかりが悪かった

ザウルス/ バッシンスピンスイーパー66
ザウラー(ザウルス大好き)時代。「すごいしなやかしなやかでノリが良くてバレない竿」と当時は泉が理想とするテーパーだった。これもテクトロで使用

シマノ/カーディフ モンスターリミテッド83
「当時、シマノに僕に合うシーバスロッドがなくて、このトラウトロッドを選んだ。すごいいい竿、これもいまだに名竿です」。AR-Cが出るまで3年ほど使用

シマノ/ オシアAR-C806
泉監修のAR-C806と906が誕生。高感度、操作性を重視した細いグリップ採用など画期的な攻撃的ファーストテーパーのシーバスロッドが業界の流れを変えはじめる

シマノ/エクスセンスS902ML/AR-C
各インストラクターのスタイルに合わせた特化型シリーズ、エクスセンスが立ち上がり、細部までこだわりを詰め込んだ100%泉の”欲求”をのせたロッド

シマノ/ ボーダレス380M-T
シーバスロッドに限界を感じていたときに出合った磯竿ボーダレス。シーバスの〝バレ〟の原因はハリでもルアーでもリールでもなく〝竿〟にあると確信した

シマノ/エクスセンスS1010-1110M/RF-T ファイティングアブソーバー
〝どれだけ、汎用竿のボーダレスをシーバスロッドに近付けさせることができるか〟を課題に泉が取り組み、新たなハードも取り入れた現時点での最強モデル

 

~泉裕文のロッド遍歴~ <ベイトロッド>

バレーヒル/岸壁ジギング スペシャル GPJ-70SP
90年代後半に泉が編み出したメソッド、岸壁ジギング。バレーヒルテスター時代の思い出深い1本。「生涯で一番、魚を釣ってる竿かもしれない」というほど

バレーヒル/ J73SPリミテッド バージョン1
岸壁ジギングスペシャルの進化版。「普通の竿は前(先)が柔らかい低弾性で後ろが硬い高弾性やけど、これはそれを逆転させた斬新性」という。これも名竿

シマノ/エクスセンスB703ML/F 岸壁コマンダー
20年、岸壁ジギングをやってきた泉が辿り着いた集大成。〝ルアーがよく動いてバラさない、どストレートな究極の岸壁ジギングロッド〟と自負する逸品

 

雑誌 ソルトウォーター(株式会社地球丸)2016年11月号に掲載

text & photo: Kenji Matsumoto
edit: Yashuhito Nakamura & Teru Wakabayashi

株式会社 地球丸 http://www.chikyumaru.co.jp/
株式会社 リバーウォーク http://river-walk.co.jp/

(C)CHIKYU-MARU,RIVER-WALK,Kenji Matsumoto,Makoto katsuzawa